職人
『職人』、辻のことを人はそう呼ぶ。そこには、『守備』『バント』『走塁』『右打』といった単語が浮かんでくる。
だが、実は辻はバントはあまり得意ではなかった。
(得意なら、若手の台頭した時に、2番バッターのバント職人として後2年は西武に残ることはできた。)
辻をして職人たらしめたのは、やはり、「右打」とその「守備」だろう。
特に、今もって私の脳裏を離れないのは、1992年のヤクルトとの日本シリーズの死闘である。
日本シリーズ第7戦目。1対1の同点、7回裏一死満塁で、バッターは1戦目に代打満塁本塁打をはなっている代打・杉浦。
ピッチャー石井丈裕。
一、二塁間を抜けようとするボールを、彼は、ジャンプ一番。大きく伸びて、横っ飛び。
ボールはミットに収まり、そのままバックホーム。
ボールは大きく上にそれ、ホームベース上の伊東は、それを思い切り飛びあがって好捕。
そのままホームに突っ込んできた広沢にタッチ!アウト!
難しいプレイをいとも簡単にやってのけるライオンズ守備陣の中でもトップクラスの辻が見せたこのプレイは、ナインの闘志に火をつけたろう。
どちらが優勝してもおかしくない接戦を勝ちぬけたのは、こういったプレーがあったからだ。
もっとぶっちゃけて言えば、「このプレイ」があったからだと私は思っている。
このプレイは何度もリプレイされ、スポーツニュースでも、繰り返し放送された。
それほどすばらしいプレイだったのである。
それは、自らを「脇役」と呼ぶ彼らが一気に「主役」の座へ踊り出た瞬間だった。
そして迎えた延長10回表。
一番辻。
岡林の甘いカーブを左翼線へ二塁打。大塚の送りバントをはさみ、三番秋山がセンターに犠飛。
決勝のホームを踏むのである。